jake (1)jake (2)jake (3)fig.jpgfig1.jpg
saisinkiji1.jpg

みく「みくは今、とても幸せです、にゃ」【SS】

 mikunyanR.jpg




1 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:12:51.14 ID:U8U4QZT20

注意点

地の文あり
みくの一人称
だけど地の文のみくは猫語じゃない



2
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:13:37.82 ID:U8U4QZT20

新人「やったー!」

 新人アイドルがライブバトルに勝利した。

 すごく嬉しそう。

 きっと、いっぱい頑張って、いっぱい練習したんだろうなぁ。

新P「おめでとう! よくやったな!」

 あの子のプロデューサーっぽい人も、喜んでる。

 傍から見ても、二人三脚で挑んだんだとわかった。



3
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:14:12.93 ID:U8U4QZT20

 何度も見た光景。

 何度も望んだ関係。

 けど、みくには無縁の姿。

 挑まれて負けたのはみくなのに、悔しさはない。

 ただただ、羨ましいと思っただけ。

 それ以外は他人事。



4
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:14:56.29 ID:U8U4QZT20

みく「あ~あ、負けちゃったにゃ。けど、次は負けないにゃ」

 一応、悔しそうな言葉を口にする。

 ライブバトルが終わった後の恒例。

 みくにやる気がなかったんだとバレてしまったら、きっとあの子は悲しむと思うから。

 このまま負け続けてたら、いつか気付かれちゃうと思うけど、その時はその時。



5
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:16:38.27 ID:U8U4QZT20

 衣装を着替え、控室を出て、帰路に就こうとしていた時、ケータイが鳴った。

 確認してみると、みくの担当プロデューサーからのメールだった。

 一度顔を合わせただけの人。

 交わした言葉は、よろしくの一言のみ。

 それからはずっとメールでのやり取り。

 どこどこに何時に集合。

 みくはそれに従って、言われた場所で、言われた時間にライブバトルをする。



6
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:17:41.44 ID:U8U4QZT20

 アイドルになってから、ずっとそう。

 ううん、本当にみくはアイドルなのか、自分でもよくわかんない。

 だって、アイドルのいろはなんて、なにも知らないんだから。

 ライブバトル自体はそれなりの数をこなしたから、バトルの時に必要な事はもう覚えちゃったけど。

 なんでみくは続けてるのかなぁ?

 最近じゃ、バトルで勝つ気なんてないから、手を抜いて疲れないようにしてるのに。

 なんでみくは、こんなアイドルもどきに縋ってるのかなぁ。

 わかんないよ……。



7
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:18:50.98 ID:U8U4QZT20

 ギュッと、明日のライブバトルの予定が映っているケータイを握り締めた。

P「初めまして」

 不意に、そう声をかけられた。

 知らない人。

 舞台裏にいるから、スタッフか、アイドル関係者の一人だと思う。

みく「えっと、どちら様にゃ? もしかして、みくのファンかにゃ? にゃはは、照れるにゃ」

 明るく振る舞った。

 仮にもアイドルと言う肩書きがあるから、個人的な感情で、情けない姿は見せられない。

 ……そう思って、空しくなった。

 まるで、アイドルって言う場所にしか、みくの居場所がないようで。



8
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:20:05.51 ID:U8U4QZT20

P「あっ、ごめん。ファンってわけじゃないんだ。遅れたけど、こういう者です」

 差し出された名刺を受取って、読んでみる。

 聞いた事がない事務所のプロデューサーみたい。

 これでもみくは、芸能事務所には結構詳しい。

 大きな所は当然として、弱小と呼ばれる所も。

 なにしろ、色んな事務所のアイドルと、ほとんど毎日ライブバトルをしてるんだから。

 流石に学校のある平日は、一回か二回程度だけど、休日になると十を超える時だって稀じゃない。

 覚えるつもりなんかなくても、自然と記憶に残る。



9
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:21:15.10 ID:U8U4QZT20

 で、目の前にいる人の事務所だけど、何度見直してもやっぱりわからなかった。

 出来立ての所なのかな?

 なんでもいいか。

 みくには関係ないもんね。

みく「これはこれはご丁寧にどうもにゃ。それで、みくにどんな用にゃ?」

P「実はね、さっきのライブバトルを見させて貰ったんだ」

みく「にゃんと! 恥ずかしい所を見られちゃったにゃ。でも、どうしてみくのバトルを? まさか、敵情視察かにゃ!?」

 近い内にライブバトルをする相手のプロデューサーが、みくを調べに来る事は、よくあった。

 みくがバトルをする相手は、新人の子ばかり。

 担当プロデューサーは、最初のバトルで負けさせないため、みくがどんなパフォーマンスをするのかを事前に把握しようとしていた。

 その度に、みくに負けるわけがないのに、と思って、徒労に同情してる。



10
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:22:28.56 ID:U8U4QZT20

 この人もそういう人なんだろう、って思った。

 けど、違った。

P「ちょっと聞きたい事があってね」

みく「聞きたい事にゃ?」

P「あのさ、俺の気のせいだったらいいんだけど、その……すごくつまらなさそうだったから」

 一瞬、息が止まったかと思った。

 上手く演技は出来ていたはず。

 実際、疑われた事なんて、一度もなかった。

 見抜かれた、と内心焦ったけど、慌てて表面は取り繕う。

 この人の口ぶり、まだ確信は持てていないようだから、挽回は可能。



11
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:24:33.84 ID:U8U4QZT20

みく「つまらなそう? みくがにゃ? いつにゃ?」

P「ライブバトル中、なんとなくそんな気がして」

みく「それは気のせいにゃ。みく、楽しくやってるにゃ。今回は負けちゃって残念だけど、次は勝つにゃ!」

 ふふん、と鼻を鳴らして胸を張った。

 上っ面だけの自信。

 こんなのでも、みくの内面を知らない人には効果はあるはずだから。

P「そっか。ごめん、変な事を聞いちゃって」

みく「気にしなくていいにゃ。それより、どうしてこんな所にいるにゃ? 担当のアイドルっぽい子は見当たらないにゃ」

 早々に話を逸らす。

 みくの演技に勘付いた人だから、深入りさせると隠し通せるかわからない。

 ベストは、すぐにこの場を離れる事だけど、いきなりだと余計に疑われかねない。

 多少お話して、キリよく別れるのがベター。



12
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:25:59.22 ID:U8U4QZT20

P「あぁ、まだ俺は――と言うより俺の所にアイドルはいないんだ」

 俺の所、と言うのは、この人の会社って意味だよね?

 アイドルがいない?

 本当に出来たばかりの事務所みたい。

 となれば、みくの事を調べに来た、って線はなくなる。

 担当アイドルがいないのに、バトル相手を調べた所で、無駄足以外のなにものでもないんだから。



13
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:27:00.63 ID:U8U4QZT20

P「ここに来たのは、アイドルについて勉強しようと思ってさ。色んな子を見る事が出来て、すごく為になったよ」

 改めて、どうして? とみくが訊く前に、この人は来た目的を教えてくれた。

 勉強熱心な人なんだなぁ、と言うのがみくの本心。

 こんなに小さな会場にも来たって事は、色々な場所を回っているはず。

 見れば、元は艶のあったと思う革靴も、紙やすりで擦ったような色になっている。

 それ自体は褒められた事じゃないけど、どれだけこの人が歩いたのかを証明していた。

 きっと、この人がプロデュースするアイドルは、幸せになるんだろうなぁ。



14
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:27:52.51 ID:U8U4QZT20

みく「アイドルが決まったら、先輩であるみくが胸を貸してやるにゃ。遠慮はしなくていいにゃ」

P「その時はよろしく。これ以上長話させても申し訳ないし、俺はこれで。ごめんね、呼び止めちゃって」

みく「なんて事ないにゃ。それじゃ、またにゃ~」

P「あぁ。また今度」

 みくは大袈裟に手を振って、この人と別れた。

 なんて事はない。

 ただの一期一会。

 そう思いながら。



15
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:29:24.56 ID:U8U4QZT20

 次の日からも変わらないアイドルもどきの生活。

 バトルをして、負けて、またバトルをして、負けて。

 影で、かませ犬だとか、アイドルとしての最初の踏み台、なんて呼ばれている。

 アイドルの子たちからは、あれだけ負けてよくアイドルを続けられてるよね、なんて笑われ始めた。

 知っている人からすると、ようやく笑われ始めたか、なんて思われるかもしれない。

 本当、なんでアイドルっぽい何かを続けてるんだろう。

 ここまで惨めな思いをして、なんでみくは小さな舞台の上で歌って、踊って、笑っていられるんだろう。

 自分がよくわからない。



16
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:30:31.70 ID:U8U4QZT20

みく「……つまらない」

 そう呟いてしまい、慌てて周りを見回した。

 幸い、近くに人はいなくて、誰にも聞かれていないようだった。

 ホッと、胸を撫で下ろす。

 けど、もう潮時かな。

 とうとう口に出してしまうほど、みくはアイドル生活と言うモノに幻滅してしまっていたみたい。

 控室に戻って、衣装を脱いで、荷物を纏める。

 そして、控室のドアノブを握りながら、決めた。

 二度とこの部屋に入る事はない、って。

 と、ほぼ同時にノックされて、思わずドアノブから手を離した。



17
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:31:52.34 ID:U8U4QZT20

P「すみません、ここに前川みくさんがいらっしゃると聞いたのですが、入ってもよろしいですか?」

 聞き覚えのある声。

 忘れていない。

 みくがつまらなさそうにライブバトルをしていると気付いた人。

 あの人が、どうしてここにいるのかはわからないけど、みくに用があるようだった。

 いつもは十数人で使う控室だけど、幸か不幸か、今はみく一人。

 だから気が緩んだのかな?

 それとも、アイドルを辞めると決めたからかな?

 みくは普通に対応してしまった。



18
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:32:45.02 ID:U8U4QZT20

みく「誰も着替えていにゃいから、入ってもいいにゃ」

 しまった、と思った。

 居留守を使えば、特に面倒もなく家に帰れたのに。

 アイドルなんてものとは無縁の生活に戻れたのに。

 でも、もう遅い。

 ドアが開いて、記憶通りの人が姿を見せた。



19
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:34:05.12 ID:U8U4QZT20

P「よかった。まだいたんだ。少し前にライブバトルが終わったと聞いて、もう帰っちゃったかと思ってた」

 控室に戻る前、ぼんやりとしていた時間のせいで、こうして再会する事となった。

 その事を教えてあげる必要はないから、お久しぶりにゃ、と挨拶をする。

P「久しぶり、と言っても数日ぶりだけどね」

みく「みくに用事があったっぽいけど、どうしたのかにゃ?」

 手遅れになったものは仕方ない。

 開き直ってみくは腰を落ち着かせた。



20
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:35:12.48 ID:U8U4QZT20

 この人も、近くのパイプ椅子を引き寄せて座る。

 その表情は、単なる世間話をしに来たと言うには、険し過ぎるというか、難し過ぎるというか、ちょっと怖い感じだった。

P「真面目な話があるんだ。前とは違って、少し時間がかかるかもしれないけど、いいかな?」

 正直、さっさと帰りたい。

 あまりこの場には居たくなかった。

 けれど、あまりに目の前の人が真剣な様子だったから、思わず頷いちゃった。



21
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:36:08.27 ID:U8U4QZT20

 ありがとう、と目の前の人は言って、一度口を閉じた。

 言い難い事らしく、少しの間、沈黙の空気が漂う。

 非常に居た堪れない。

 なんて言うか、大声で叫びたくなるような時間だった。

 どれくらい経ったかな?

 五分も経っていないと思うけど、目の前の人はようやく口を開いた。

P「最初に謝っておくよ。ごめん」

みく「どうしたんにゃ? みくは謝られるような事をされたつもりはないにゃ」

 軽い口調で言った。

 アイドルとしてではなく、重苦しい空気に耐えた反動のせいだけど。

 もっとも、それでも空気はあまり変わらかった。



22
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:37:11.34 ID:U8U4QZT20

P「君について、色々な噂を耳にした。だから、勝手だけど色々調べさせて貰ったんだ」

みく「……」

 みくは今、どんな表情も浮かべていないと思う。

 その場を乗り切る笑顔も、勝手に調べられた事に対する怒りも、ほとんどの事を知られた悲しみも、みくにはなかった。

 きっと、すごい冷めた顔なんだろうなぁ。

 その顔を、真っ直ぐ目の前の人に向ける。

 視線を逸らす理由が、みくにはなかったから。

 もう、関係ないと思ったから。

 アイドルじゃないみくには。



23
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:38:50.65 ID:U8U4QZT20

P「前に会った時、気付いておけばよかった。何日も遅れて、ごめん」

みく「それで……それで、どうするつもりにゃ?」

P「君さえよければ、ウチの事務所に――」

 それ以上、みくは言わせない。

 鼻で笑って遮った。

 なにを言いたいか、これほどまでわかった事はない。

みく「お断りにゃ。もうアイドルなんてこりごりにゃ」

 なにかを言いかけようとして、目の前の人は一度口を開け、なにも言わないまま閉じた。

 少し間を開け、目の前の人は伏せ目がちに、そっか、とだけ呟いて、立ちあがる。



24
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:40:58.68 ID:U8U4QZT20

P「君が酷い思いをして来た事は、理解しているつもりだ。だから、無理強いはしない」

 そう言いながら、控室のドアへこの人は向かった。

 ドアを開け、一歩出た所で立ち止まり、みくの方を見ないまま、最後の言葉を残す。

P「もし……もし、まだアイドルに未練があったら、連絡をして欲しい。いつ、どんな時でも君を歓迎する」

 ドアの閉まる音が、控室に、みくの胸に響いた。

 ぽっかりと空いてしまった穴の中で、その音は何度も反響を繰り返す。



25
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:41:48.14 ID:U8U4QZT20

 アイドルを辞める、とだけ書いたメールを担当プロデューサーに送って早数日、みくは平々凡々な生活に戻った。

 学校の友達と街を歩いたり、カラオケとかに行ったりと、無駄な事に浪費していた時間を取り戻す勢いで遊んだ。

 うん、無駄。

 はっきりとそう思える。

 誰かのためのアイドル。

 その誰かは、ファンではなく、他のアイドルだったんだから、笑えない。



26
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:43:36.89 ID:U8U4QZT20

 担当プロデューサーからの連絡もない。

 ライブバトルをするためのメールすら途切れた。

 わかり切っていた事だったから、落ち込んではいない。

 清々しい気持ちにさえあるよ。

 やっぱりみくはその程度だったんだ、って。

 みくはアイドルに向いていなかったんだ、って。



28 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:45:03.76 ID:U8U4QZT20

 そうとわかったから、一生懸命楽しい事を探してる。

 でもね、どうしてかな?

 どんな事をしても、楽しくないんだ。

 友達と遊んでいても、楽しくないからいつも作り笑顔。

 アイドルもどき時代に培ったスキルが、こんなに早く活用されるなんて、思ってもいなかった。

 と言うより、その頃となんにも変ってないって言った方が正しいかもね。

 猫カフェに行って、猫チャンと戯れてても、芯の方は癒されない。

 無気力って、こんな感じなんだと思った。



29
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:52:17.87 ID:U8U4QZT20

 ポケットに手を入れる。

 触れるのは、一枚の名刺。

 アイドルのいない事務所のプロデューサーが渡してくれた物。

 まだ捨てられずにいた。

 お守りとしての価値もないのに、なんとなく、いつも持ち歩いてる。

 女々しい。

 自分でもそう思うよ?

 もう一度、アイドルとして頑張りたいとは思えない。

 でも、アイドルになりたかったと思う自分もいる。

 新人アイドルの踏み台になるだけの存在じゃなくて、正真正銘、自分が楽しんで、ファンの人たちを喜ばせられるアイドルに。

 前の事務所に戻りたいとは、これっぽっちも思っていないけど。



30
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:53:24.32 ID:U8U4QZT20

友「みく~、また明日ね!」

みく「また明日にゃ~」

 今日も友達と遊ぶために、街を歩いていた。

 穴場の雑貨屋を見つけたと聞いて。

 そこに、可愛らしい猫チャンの置き物があった。

 ガラス製の物で、ペットボトルのキャップほどのサイズ。

 値段も手頃で、友達に薦められた。

 少し前のみくだったら、言われるより早く、レジに持って行ったと思う。

 けど、購入意欲は全く湧かなかった。

 むしろ無駄使いのようにしか感じなかった。

 だから、その場は適当に受け流して、ずっと友達に付き合い、今に至る。



31
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:55:45.15 ID:U8U4QZT20

 はぁ、と溜息が洩れる。

 友達が嫌いなわけじゃない。

 みんな良い人ばかり。

 アイドルは辞めたと言っても、今まで通り接してくれている、良い友達。

 でも、一緒にいて楽しいとは思えない。

 無理にテンションをあげるから、疲れが日々積もる。

 そんな自分が申し訳なくて、二つの意味で溜息が出る。

 と、近くある建物から見知った顔の者が出て来た。

 二回会話した、出来たばかりの事務所のプロデューサーだった。

 顔を合わせたくないから、電柱に隠れて様子を窺う。



32
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:58:02.03 ID:U8U4QZT20

幸子「プロデューサーさん、いつになったらボクをデビューさせてくれるんですか? もう完璧じゃないですか。最初から完璧でしたけど」

 彼の近くに小さな女の子がいた。

 会話から察するに、あの子があのプロデューサーの事務所に入ったアイドルみたい。

幸子「かわいいボクを飼い殺しにしていると、いつか出て行っちゃいますからね」

P「人聞き悪い事言うな。少なくとも一ヶ月はレッスンで基礎を積ませるって言っただろうに」

幸子「はぁ、仕方ありませんね。今回は寛大なボクが折れてあげますよ。感謝して下さい。ボクの足を舐める事も厭わないほどに」

P「……ほう、なら足を出せ。靴下も脱げ。ぬるんぬるんになるまで、べろんべろん舐めてやる」

幸子「……本気ですか? 冗談ですよ?」

P「男の誇りは、時に恥をも捨てさせるんだ。ほれ、さっさとしろ。それとも、俺が脱がせてやろうか?」

幸子「ま、まぁ? ボ、ボクにも至らぬ点があった事は認めますよ? えぇえぇ。……だから、止めません?」

P「わかればいいんだよ」

幸子「よかった……」



33
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:59:19.87 ID:U8U4QZT20

 あの人は変態さんだった。

 そう思わずにはいられない。

 でも……

みく「楽しそうにゃ」

 耐え切れず、言葉として口にしてしまった。

 何度も何度も見た事がある光景。

 その度に羨ましいと思っていた。

 なにかがほんの少し違えば、みくもあの子のようになってたのかな?

 プロデューサーと冗談を言って笑い合える。

 そんな関係に。



34
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 18:59:54.98 ID:U8U4QZT20

 無意識の内に、ポケットに手を入れていた。

 指先に伝わる、硬い紙の感触。

 どうする?

 自分に問いかけた。

 アイドルなんてこりごり。

 数日前、あの人に行った言葉。

 それは紛れもない本音。



35
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:01:45.68 ID:U8U4QZT20

 正直、今でも怖い。

 また同じ事を繰り返すんじゃないか、って。

 でも、でもやっぱり、みくはアイドルになりたい。

 色々あり過ぎて――ううん、なんにもなさ過ぎて、きっかけは思い出せないけど、あんなに中途半端に終わらせたくはない。

 そう、思った。

 みくには後一度、チャンスが残ってるんだから。

 考え込んでいる内に、あの人とアイドルの子はいなくなっていた。

 急いで名刺とケータイを手に、書かれている番号へ電話をかける。



36
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:04:15.27 ID:U8U4QZT20

 教えて貰った事務所に、早速来た。

 電話に出た女の人は、みくの事を知っていたみたいで、すんなり話が通った。

 それこそ、拍子抜けするくらい。

 ノックを三回、失礼しますにゃ、と言って恐る恐る入る。

 中にいた三つ編みの女の人が、笑顔で迎えてくれた。

ちひろ「いらっしゃい、前川みくちゃん。電話でも名乗ったけど、私は事務員の千川ちひろです。よろしくお願いします」

みく「よ、よろしくお願いしますにゃ」

ちひろ「プロデューサーさんは、幸子ちゃん――あぁ、この事務所に所属している唯一のアイドルなんだけど、その子を送ってるの」

 だから、戻るまでソファーに座って待っていて下さい、とちひろさんは促した。

 あの子、幸子ちゃんって名前なんだ、と思いながら遠慮せず座る。



37 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:07:08.21 ID:U8U4QZT20

 少し固く、お世辞にも良いソファーとはいえない。

 事務所も、予想以上に小さくて、事務用の机が二つしかなかった。

 隣に部屋が続いているみたいだけど、物置とかそんな類かな。

 けれど、居心地の良い空間。

 前の所は、広くて人も沢山いたけど、寒気がするような冷たさしかなかった。

 芸能事務所ってそういう場所なんだと思ってたよ。



38
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:08:11.46 ID:U8U4QZT20

ちひろ「お茶は温かいのと冷たいの、どちらがいいですか?」

みく「猫舌だから、冷たい方がいいにゃ」

ちひろ「わかりました。じゃあちょっと待ってて下さいね」

 狭い路地裏みたいな隙間に、ちひろさんは入って行った。

 あそこが給湯室に当たる所なのかな?

 飲み物を聞かれて向かったんだから、間違いないと思う。



39
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:09:21.80 ID:U8U4QZT20

 すぐにちひろさんは戻って来た。

 手にはお盆があり、涼しげな丸いコップが乗っている。

 どうぞ、と目の前に置かれたコップは、氷がぶつかり合い、甲高い音を立てた。

ちひろ「それにしても、本当に嬉しいですよ。プロデューサーさんもこれで安心します」

みく「安心? みくの事、心配してたのにゃ?」

ちひろ「そりゃもう」

 ちひろは口元を手で隠しながら、クスクスと笑う。

 そして、知らなかった出来事を教えてくれた。



40
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:12:53.28 ID:U8U4QZT20

 遡る事、みくがプロデューサーと再会した前日。

 みくが事務所でどういう扱いを受けて、なにをしていたかを知った日、プロデューサーは電話を握り締めた。

 無論、みくの事務所に電話をかけるため。

 そこで、みくの元プロデューサーと会話する事になったのだが、ここで問題が起こった。

 いや、問題が起こらなかった事が問題と言うべきか。

 みくを移籍させて欲しいとプロデューサーが頼んだ所、いとも簡単に承諾されたのであった。

 移籍金もなにもいらない。

 必要な書類を送って貰えれば、それでいい、と。

 それにプロデューサーが激怒した。

 自分のアイドルをなんだと思ってるんだ! と言って電話越しに怒鳴るほど。



41
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:14:27.39 ID:U8U4QZT20

ちひろ「私、プロデューサーさんとの付き合いはそれなりに長いのですが、あんなに怒った所は初めて見ましたよ」

 そう語るちひろさんに、怖かった、というような様子はない。

 逆に、嬉しそうですらあった。

 アイドルのために怒れるプロデューサーだと知って。

ちひろ「その後、縋りつかれたんですがね」

P『ちひろさん、どうしましょう! 勢いのまま電話を叩き切っちゃったんですけど、移籍の話がなくなっちゃったらどうしましょう!?』

ちひろ「って」

 クスクスと笑うちひろさん。

 小さな声で、「まっ、私が本気出せばどうにでも出来ますが」と呟いたような気がするけど、気のせい気のせい。

 笑顔の種類も、白から黒に変わったような気がしたけど、見間違い見間違い。

 ……うん、きっとそう、うん。



42
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:17:16.70 ID:U8U4QZT20

ちひろ「みくちゃんをこの事務所に誘いに行った後、もったいないなぁ、って何度も呟いていましたしね」

みく「もったいにゃい?」

ちひろ「みくちゃんならすごいアイドルになれる、って確信がプロデューサーさんにはあったようですよ」

 どうしてそう思ったのか、わからない。

 あの人が見たライブバトルは、手を抜いて、その上負けた。

 頑張っているように見せる努力はしていたけど、それだけ。

 しかもあの人は、つまらなさそうにしていると、見抜いていた。

 ただのやる気がないアイドル、って思われてもおかしくはない。

 事情を知った今なら尚更。

 なのに、なんで?

 どうして、怒鳴るほどみくを気にかけてくれるのかな?

 いくら考えても、可能性を絞るだけで精一杯。

 みくはあの人じゃないのだから、わかるわけもなく、ちひろさんが淹れてくれたお茶を口にする。



43
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:19:09.12 ID:U8U4QZT20

P「ただいま戻りました」

 お茶をお代わりして、それも半分ほど飲んだ頃、この事務所のプロデューサーが戻って来た。

 おかえりなさい、とちひろさんは迎え、視線でみくがいる事を伝えていた。

 目を見開いて驚き、すぐに笑顔を浮かべる。

P「来てくれたんだ、ありがとう! ちひろさん、この子が来てくれたのなら、連絡下さいよ。飛んで帰って来たのに」

ちひろ「サプライズですよ。すぐに戻って来る事は、知っていましたし」

P「そりゃ、驚きますよ」

 他にもなにか言いたそうだったけど、全て飲み込んだ様子で、こちらに笑顔を向ける。

 数秒前とは少し違い、喜んでいるというより、見守るような柔らかさがあった。



44
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:21:25.98 ID:U8U4QZT20

P「アイドルとして、復帰してくれるんだね?」

みく「本音を言うと、まだ迷ってるにゃ」

P「うん、仕方ないよ。少し前まで、大変だったんだから。前も言ったけど、俺らに無理強いをさせるつもりはない」

 でも、とこの人は続けた。

P「ここに来たって事は、やり残したなにかがあるって事だよね? 最低でも、それを叶えるように俺は尽くすよ」

 最高はトップアイドルだけど、ってこの人は付け足す。

 それを聞いて、少し意地悪な質問をしてみた。

みく「やり残した事が、トップアイドルになる事、だって言ったらどうするにゃ?」

P「最低ラインが、最高ラインになるだけの話だ」

 単純明快な答えだった。

 だからこそ、胸に響く。

 自然と頬が緩むほどに。



45
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:23:14.43 ID:U8U4QZT20

みく「でもにゃ~、Pチャンはアイドルの足を舐め回そうようとする変態さんだからにゃ~」

P「おまっ! なんでその事を!」

ちひろ「……プロデューサーさん、正直ドン引きです」

P「ち、違うんです! これには浅いように見えて深い訳が! ……ゴホン。落ち着いて、弁解の余地を」

 咳を入れて、気分を入れ替えたのかな?

 なんか、やけにキリッとした顔つきになった。

 余計に悪戯をしたくなっちゃった。

ちひろ「聞きましょう。一応」

P「実は――」

みく「幸子ちゃんって子が、足を舐めるほど感謝しなさい、って事を冗談で言ってたのに、真に受ける変態さんにゃ」

ちひろ「……」

P「視線が痛い! ちひろさんの視線が、雪の中でバイクを走らせてる時の風より痛い!」



46
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:24:04.63 ID:U8U4QZT20

 久しぶりに――本当に久しぶりに、みくは笑ったよ。

 心の底から、素直に。

 決して自分を偽る事なく、みくは笑えた。

 そして思う。

 この事務所で、もうちょっと頑張ってみよう、ってね。



47
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:25:07.84 ID:U8U4QZT20

 所属事務所が変わって、一ヶ月。

 新鮮な事ばかりだった。

 初めて受けたレッスン。

 すごく疲れちゃった。

 筋肉痛が酷かったり、肉刺が何個も潰れたり。

 でも、楽しかった。

 腕の振り方や、足の運び方、体重移動諸々のダンスレッスン。

 高音低音の出し方やコツ、正確な音程を身に付けるボイスレッスン。

 それらの基礎となる、筋力トレーニング。

 全部我流でやってたから、ダメだった部分が明確になって、すぐに矯正する事が出来た。



48
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:26:27.18 ID:U8U4QZT20

 張り合える仲間がいるのも嬉しかった。

 隣でレッスンに励むさっちゃんは、努力なんてしませんよ、なんて口では言うタイプだけど、いつもみくより真剣に取り組んでた。

 だから、負けたくないと思って、みくも高いモチベーションを維持出来る。

 途中、CDデビューも果たした。

 みくのための、みくだけの曲。

 歌詞もみくに打ってつけの物だった。

 嬉し過ぎて、Pチャンに飛びついちゃった。

 さっちゃんがその時不貞腐れてたのは、どっちの意味でかな?

 にゃはは、きっと両方だよね。

 でも、みくはこれでもアイドルとして先輩だから、ほんのちょっと我慢だよ、さっちゃん。

 代わりに、ってわけじゃないけど、Pチャンが慰めるために色々してたのは、目を瞑ってあげるから。



49
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:29:18.02 ID:U8U4QZT20

 CD販売と言う事で、サイン兼握手会のお仕事もしたよ。

 アイドルとして、初のお仕事。

 ……うん、まぁ、そんなに人は集まらなったけど、みくはくじけないよ!

 この程度、事務所を移る前の事を考えると、どうって事ない。

 そう考えると、無駄としか思えなかったあの頃も、それなりにみくのためになったのかも。

 許そうとは思わないし、あの頃に戻りたいなんて気持ちはクオークほどもないけどね。

 そして今、みくは控室にいる。

 二度と入る事はない、って一時は思ってたこの部屋に、戻って来た。

 でもあの頃との違いは一目瞭然。

P「改めて言うけど、相手はバトルで負けなしのアイドルだ。弱いわけはないぞ。でも、みくなら大丈夫。戦歴にみくが土を付けてやろう」

 隣にPチャンが、みくのプロデューサーがいる。

 みくはもう、一人じゃない。

 例え、ステージ上では一人でも、あの頃のような孤独なんて感じるわけない。



50
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:30:25.22 ID:U8U4QZT20

みく「何度目かの質問になるけど、みくの相手は、本当に前のみくみたいな人じゃにゃいんだよね?」

P「もちろんだ」

みく「うん、なら本気でやるにゃ」

 もし、みくと同じように噛ませ犬のアイドルが相手なら、わざと負けようと思ってたけど、心配はないみたい。

 あの立場の辛さは、身を以って知っているからね。

 Pチャンがそんな相手とバトルを組む人とは思えないし、仮にそうだったら、Pチャンを恨んでたよ。

 とりあえず、一安心。



51
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:31:20.90 ID:U8U4QZT20

 深く息を吸って、ゆっくりと吐く。

 それでも、心臓の音がうるさい。

 初めてのライブバトルの時よりも、ずっと。

 みくの対戦相手は、みんなこんな気分だったのかな?

 だとしたら、嬉しいな。

 やっと辿り着けたんだって、実感が湧いて来たよ。



52
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:32:27.73 ID:U8U4QZT20

 絶対に負けない。

 負けるわけにはいかない。

 一度は折れたみくを拾って、ここまで連れて来てくれたPチャンのためにも。

 レッスンで張り合ってくれたさっちゃんのためにも。

 いつも笑顔で出迎えてくれたちひろさんのためにも。

 今回は、今回だけは、勝ってみせる。

 それがみくに出来る、恩返しの一歩目なんだから。



53
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:33:39.48 ID:U8U4QZT20

スタッフ「前川さん、そろそろお時間です。準備の方、よろしくお願いします」

P「よし、行くか。舞台袖で応援しててやるからな」

みく「お願いにゃ!」

 移動して、ステージの中央に立つ。

 武道館とか、ドームとかと比べるのは、失礼なくらい小さな舞台。

 それでもお客さんはいる。

 少ないし、その中でもみくのファンは数えられるほどしかいないと思う。

 けれど、人数が違うだけで、お客さんである事に変わりはない。



54
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:34:15.95 ID:U8U4QZT20

 思えば、みくはとても失礼な事をしていた。

 このお客さんたちを、単なる採点の道具のようにしか思っていなかった。

 だから、何も考えず、手を抜いていられた。

 あの頃のみくは、アイドルとして最低だった。

 でもね、今日は違うよ。

 全力を尽くす。

 だから、みくを見ててね。



55
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:35:13.90 ID:U8U4QZT20

 数分後、歌を、踊りを無事に終えた。

 ミスはなかった……はず。

 自分の採点じゃ、百点満点に花丸を付けられる。

 ステージの上でここまで息が乱れたのは初めて。

 すごく疲れちゃった。

 疲れちゃったけど、今までで最高の気分。

 笑顔のまま舞台裏に走って、Pチャンとタッチを交わした。

 その時にPチャンも、最高の出来だ、って言って頭を撫でてくれた。

 あとは、相手のライブを見て、お客さんが良いと思った方のボタンを押して、結果が決まる。

 どうなるかは、神のみぞ知る。

 ただ、少なくともみくは、みくに出来る最大限の事をした。

 それは確かだと、胸を張れた。



56
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:37:04.78 ID:U8U4QZT20

 相手のライブも終わり、投票。

 結果が出るまでの時間は、それほど長くない。

 ないのだけど、酷く時間の流れが遅い。

 以前のみくなら、ぼーっとしている内に結果が出て、お決まりの言葉を相手に伝えるだけだった。

 でも、勝ちたいと願う今は、そんな余裕なんてない。

 顔の前で手を組み、祈る。

 そして、ステージの後ろ側にあるスクリーンに映し出されたのは――



57
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:38:19.80 ID:U8U4QZT20

 ……相手の名前だった。

 呆然とする。

 膝が崩れ落ちそうだった。

 目に涙も浮かぶ。

 悔しい。

 それだけが頭を占める。

 けど、我慢した。

 悔しいけど、相手の方がお客さんの心を掴んだ。

 なら、伝えるのは涙じゃないよね。

 無粋な物は、華やかな舞台の上には似つかわしくない。

 硬く握った拳を、食い縛った歯を、静かに緩めて、相手の子へ顔を向ける。




58 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:39:16.21 ID:U8U4QZT20

みく「あ~あ、負けちゃったにゃ。けど、次は負けないにゃ。あと……おめでとうにゃ!」

 上っ面だけじゃない。

 心の底からこの言葉が言えた。

 みく個人としては、ある意味満足した。

 悔いは……あるけど、それでも、みくは成長したんだって思えたから。



59
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:40:07.59 ID:U8U4QZT20

 でも、舞台袖を見たくはない。

 Pチャン、失望した?

 幻滅した?

 不安が胸を締め付ける。

 アイドルとして出来た居場所を失うんじゃないかって。

 ……ごめんなさい。

 ごめんなさい、Pチャン。

 そう思いながら、舞台袖に向かった。

 アイドルであるみくの帰る場所は、Pチャンのいる所だけだから。

 そこで、見たのは――



60
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:41:24.65 ID:U8U4QZT20

P「ごめん……ごめんな、みく……」

 袖で涙を拭いながら謝るPチャンの姿だった。

 何度も何度も、ごめんって言いながら。

 なんでPチャンが謝るの?

 Pチャン、なにも悪い事してないよ?

 みくが悪いんだよ?

 Pチャンの期待に応えられなかったみくが。

 そう、言おうとした。

 でも、言葉にならなかった。



61
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:42:45.61 ID:U8U4QZT20

 我慢してた涙がね、溢れちゃったの。

 自分じゃどうしようも出来ないくらい、沢山。

 負けちゃった悔しさと、みくの居場所がなくならなかった安心感がごっちゃになって、わけわかんない。

 子供みたいに、みくは泣いちゃったんだ。

 Pチャンと一緒に。

 それでね、この時に改めて思ったの。

 みくのために、こんなに涙を流してくれるPチャンの力になろう、って。

 周りから、すごいプロデューサーだ、ってPチャンが思われるほど強くなろう、って。

 もう誰にも負けず、Pチャンと一緒に、一番高い所に立ってみせる、って。



62
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:43:59.33 ID:U8U4QZT20

 帰りの車の中、みくは尋ねてみた。

 ずっと心にしまってた疑問。

みく「……ねぇ、Pチャン。Pチャンは、どうしてみくの事を大切にしてくれるのかにゃ?」

P「自分のアイドルなんだから、大切にするのが当たり前だろ?」

 運転するPチャンは、みくの質問に首を傾げた。

 泣き過ぎちゃって、目が真っ赤。

 みくも人の事言えないと思うけどね。

みく「みくが事務所を移籍する前から、みくを心配しててくれたにゃ。もしかして、同情にゃ?」

P「まぁ、それがなかったと言ったら、嘘になるな。でも、それ以外の理由もあるんだぞ」

みく「どんにゃ?」

 Pチャンは子供っぽく笑って、教えてくれた。

 とても簡単で、プロデューサーのPチャンらしい答え。

P「このつまらなさそうにしてるアイドルが、心から楽しそうに歌って踊ったら、どれだけの笑顔で溢れるんだろう、って」



63
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:45:22.28 ID:U8U4QZT20

十一ヶ月後


みく「それがみくとPチャンとの思い出なのでしたにゃ。はい、拍手にゃ!」

莉嘉「そんな事があったんだね」

美嘉「大変だったね、みくちゃん。ところで……」

みく「にゃ?」

美嘉「途中にあった、プロデューサーの変態話は実話?」

みく「実話にゃ。おっ、丁度良い所にさっちゃん」

幸子「なんですか?」

みく「大体一年くらい前、Pチャンに足を舐められそうになった事、覚えているかにゃ?」

幸子「あぁ、ありましたね。ボクの常識外れなかわいさのせいでしょうが、あれは引きました。人通りが少ないとはいえ、普通に外でしたし」

みく「ほらにゃ」

美嘉「うわぁ……」

莉嘉「Pくん……」



64
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:46:32.84 ID:U8U4QZT20

P「おっ、全員ここに揃ってたか。みんなに話が……ん? なんか、みんなの俺を見る目、冷たくない?」

幸子「なんの用ですか? 変態プロデューサーさん」

美嘉「せめて、外は控えた方がいいと思うよ、変態プロデューサー」

莉嘉「その……アタシも今回の変態具合はフォロー出来ないよぉ……」

P「なんで変態扱いされてんの!?」



65
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:48:30.20 ID:U8U4QZT20

みく「にゃははっ。Pチャン、過去は語り継がれていく物にゃ」

P「お前か! なに話した!? 怒るから言ってみろ!」

みく「怒られるのは嫌にゃ。だから、黙秘権を行使するにゃ」

P「……ほう。なら、今回の件は丸々白紙にしてやろうか?」

幸子「なにかあったのですか?」

P「方々を駆け巡って得た、東京ドームと武道館のライブ。残念だけど、キャンセルしようかなぁ」

幸子「やっと来ましたね、ボクに相応しい舞台の一つが。そういうわけで、みくさん、さっさと謝って下さい。主にボクのために」

みく「早速さっちゃんが裏切ったにゃ!?」



66
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:50:05.06 ID:U8U4QZT20

美嘉「アタシと莉嘉も出られるの?」

P「ゲストって形で悪いけどな。幸子とみくが、ウチの事務所のアイドルになった一周年記念ライブだから。でも、最後は四人で締める予定だ」

莉嘉「みくちゃん、観念した方がいいよ?」

美嘉「早く謝らないと、みくちゃん」

幸子「ほら、遠慮せずに」

P「さて、どうする?」

みく「四面楚歌にゃ!? でも、みくは自分を曲げないよ!」


 まぁ、なんだかんだあったけど、みくは今、とても幸せです、にゃ。



67
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga] 投稿日:2013/10/17(木) 19:52:25.20 ID:U8U4QZT20

終わり

なんか猫じゃなくて犬っぽくなったけど仕方ないね
読んでくれてありがとう




68 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2013/10/17(木) 19:52:56.69 ID:Ga4STFWPo

感動しました
みくにゃんのファン続けます



70 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2013/10/17(木) 19:59:16.71 ID:e2ZGRaFZo

乙乙!
いいなぁ…凄く良かったよ。



71 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2013/10/17(木) 19:59:21.62 ID:XC/VmUeF0

とっくにみくにゃんにメロメロです



72 名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 投稿日:2013/10/17(木) 20:05:43.07 ID:xtXLMGNio

俺が最初に手に入れたレアが確かみくにゃんだったんだ…。
良かった乙。

[ 2013/10/26 22:31 ] SS | コメント(38) | このエントリーをはてなブックマークに追加 |
jake (1)jake (2)jake (3)fig.jpgfig1.jpg
113615 名前: 2013/10/26 22:33
SSは珍しいね
113616 名前: 2013/10/26 22:37
良い話の途中の350万回負けてるで吹いた
113618 名前: 2013/10/26 22:47
SS久し振りだけどなげぇ
113619 名前: 2013/10/26 22:55
感動しました、みくにゃんのファンになります
113620 名前: 2013/10/26 22:56
展開は王道だけど、王道だけに素晴らです!
みくにゃんのファンが増えます
113621 名前: 2013/10/26 23:00
さいきんみくにゃんに浮気気味だにゃあ?
113622 名前: 2013/10/26 23:03
100万回負けたねこ
113623 名前: 2013/10/26 23:09
肉刺はマメでいいと思った(漢字読めない感)
113625 名前: 2013/10/26 23:36
SSネタ取り上げるのひっさしぶりだなあ
みくは何だかんだで良い
113627 名前: 2013/10/26 23:45
アイマスははじめてのお仕事でファンが0人から1人になるところから始まる
そしてその最初の1人目のファンこそプロデューサーなのである
みくにゃんのファンになったときみくにゃんPのアイマスは始まり
みくにゃんのファンを辞めたときその人のアイマスは終わるのである
113628 名前: 2013/10/26 23:46
SS等は読まない派だけど、普通に良いSSだった
113630 名前: 2013/10/26 23:53
フ ァ ン 激 増 !
113632 名前: 2013/10/27 00:02
SSもっとやってほしいにゃあ
とコメントしてから幾星霜
やっぱ良い
113633 名前: 2013/10/27 00:03
良かったにゃ
113634 名前: 2013/10/27 00:09
長すぎて3行でギブアップ
113635 名前: 2013/10/27 00:11
感動しました・・みフ成
113636 名前: 2013/10/27 00:20
ええ話や
でも話の流れぶった切ってるから>>27は最後に入れよう管理人ちゃん
113637 名前: 2013/10/27 00:56
※10
アイマスをシンデレラガールズに書き換えてコピペにしよう(提案)
113638 名前: 2013/10/27 01:50
イイハナシダナー

やはり管理人ちゃんは猫好き
113640 名前: 2013/10/27 03:08
SSとは珍しい
113642 名前: 2013/10/27 03:26
涙不可避
113643 名前: 2013/10/27 03:30
みく「両手は挙げない」
読むと切なくなるけどオススメですにゃ
113644 名前: 2013/10/27 05:40
>>113643
あのss良かったよな
前川みき「今日も今日とて」も人を選ぶ雰囲気だけど
いつもと違うみくにゃんの魅力が出てて好き
113645 名前: 2013/10/27 05:45
このSS好きやわ
113646 名前: 2013/10/27 06:41
みくにゃんのファン辞めて、大ファンになります!
113647 名前: 2013/10/27 06:59
初めて引いたSRはセクシーキャットみくにゃんだったなぁ
S4になった今でも手放さずに女子寮で眠ってるよ
113648 名前: 2013/10/27 07:14
350万回負けたねこ ってもう書かれてたか
113649 名前: 2013/10/27 08:01
こうして見るとみくもシンデレラガールって感じがするよな。
最初は新人アイドルにも勝てなかったのにPと出会って変わっていったっていう
113651 名前: 2013/10/27 12:18
前はSSのまとめも多かったんだけど、
俺の○○ちゃんはこんなことを言わない! 的なコメントが増えてやめたんだよ…。
最初数行読んで合わなかったらそっ閉じするとみんな幸せになって良いと思うにゃ。
113654 名前: 2013/10/27 14:19
これくらい良作SSなら多くの人に読んでもらいたい気持ちもわかるけど
やっぱSSはSSまとめに任せるべきだと思うにゃあ
113656 名前: 2013/10/27 14:55
俺も姉妹ヶ崎にセットで冷たい目で見られたい
113657 名前: 2013/10/27 15:17
SSで地の文があるとすごく読むのがつらくなる
文章がまるで頭に入らねえ
もうだめぽ
113658 名前: 2013/10/27 16:12
幸子も似たような境遇っぽいのが予想出来るのが泣ける
113660 名前: 2013/10/27 17:16
城ヶ崎美嘉「アイドル?」の続編(みく編)だな


113671 名前: 2013/10/27 17:56
みくが飛んでいくよ!も良かったにゃあ。
113689 名前: 2013/10/27 20:04
※113660
あれもいいね、ある意味イケメンのみくにゃんが見られる貴重なSS
113739 名前: 2013/10/28 03:00
良いSSだね。
久々に涙腺が緩んだ。
113783 名前: 2013/10/28 17:33
いい話だった。感動した。
にしてもSSのせるとはめずらしいな。

コメントの投稿









※スパム対策に半角のwwwが使えないです



管理者にだけ表示を許可する
なかよく使って頂ければありがたいです
コメントの連投はご遠慮ください
※連投規制の巻き添え規制が発生している場合もあるのでTwitterかメールでご一報頂ければ対応いたします

雑談スレ  イベントスレ   デレステスレ
ライラさん!
rr_20180816230234322.jpg
メイドさんらしき人を推してますよ管理人は


ご意見ご感想その他用などがありましたら
当ブログについて

連絡先が変わりましたお手数ですがご連絡する際はご確認ください

当ブログは2chはもうまとめておりません
当ブログはリンクフリーです

ソフトバンクIPは現在巻き込み規制が発生しております、申し訳ありません…


チョコミントの時代になりつつあるらしい…
syuukosp.png
トップ絵は特別でね62枚あるんだ
subarasikitopearigatou.gif
素晴らしきトップ絵一覧

トップ絵一覧はページを下にスクロール!
この検索フォームすごいよぉ!
さすがグーグルのおプションさん!
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ランダム記事クレーン
最近の人気記事
お世話になっているサイト様
QRコード
コード
WWG!
wwg.jpg
atumi.gif
anzudash.gif     osigoto.jpeg
millionlivebana.jpg
サイドm
トリグラ


素晴らしきトップ絵一覧
tobakamosamatopes.jpg usotarousamatopes.jpg midorisamatopes.jpg ringosamatope.jpg  isumisamatope.jpg nozomisamatope.jpg sakurasamatope.jpg kosukasamatope.png  yurasamatope.jpg emusamatope.jpg sippusamatope.jpg basyaPsamatope.jpg  wakamesamatope.png syarusamatope.jpg tobakamosamaTOPe2.jpg sugiyamasamatope.jpg  tanedasamatope.jpg ebiharasamatope.jpg siwasusamatope.jpg kanyapisamatope.jpg  rokurosamatope.jpg torinikusamatope.jpg aikurisamatope.jpg attyosamatope.png  kurokinsamatope.jpg poransamatope.jpg takaharusamatope.jpg putiPmansamatope.jpg  tanukitasamatope.jpg okahirasamatope.jpg kerberosamatope.jpg kotohasamatope.jpg  onitouhusamatope.png takeminsamatope.jpg mikeponsamatope.jpg mastasamatope.jpg  asatoyuisamatope.jpg LLRKsamatope.png niyorisamatope.jpg syarusamatope2.jpg  gauusamatope.png hekigasamatope.png nekoyamadasamatope.jpg kaensamatope.jpg  hatomugisamatope.jpg gigamsamatope.jpg ringoapplesamatope.jpg tetubutasamatope.jpg toyama96samatope.jpg moyasisamatope.jpg yuzusukesamatope.png tetujisamatope.jpg  mikamegorousamatope.png huredeisamatope.jpg syarusamatope3.jpg kurokinsamatope2.jpg  Rasamatope.jpg maihamasamatope.jpg marotyasamatope.jpg kerberossamatope2.jpg  haasyasamatope.jpg udonsamatope.jpg